ごあいさつ | 河野一郎

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PROFILE
公益財団法人 日本薬剤師会 会長

一般社団法人
日本スポーツフェアネス推進機構 代表理事
筑波大学名誉教授/医学博士

Ichiro Kono 河野一郎

公認スポーツファーマシスト認定制度の構想は、2004年のアテネオリンピックに遡ります。金メダルを獲得した室伏広治選手(現スポーツ庁長官)のハンマー投げ種目で、室伏選手以外の上位入賞者のドーピング規則違反が判明し、競技スポーツにおけるドーピング問題の深刻な状況が明らかになったことは、スポーツドクターとして国内外のドーピング対策に関わってきた私の中で大きなできごとでした。さらに、アテネオリンピックでの日本選手の活躍を契機に国内でのオリンピック開催への機運が高まり、東京都による大会招致活動が本格化する中で、国としても、より積極的なドーピング対策を進めていくことが求められるようになりました。

それまでのアンチ・ドーピング活動の中心は主に医師と科学者であり、薬物の専門家である薬剤師の方々の関与はほとんどありませんでしたが、当時、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の理事長の職にあった私は、日本独自の制度として、薬剤師の皆様にドーピング対策への一端を担っていただいくというアイディアを思いつき、日本薬剤師会をはじめとする関係者の皆様にご相談を申し上げ、賛同をいただきました。

名称については、ドーピング対策に特化した「アンチ・ドーピングファーマシスト」なども候補にあがりましたが、厚生労働省による健康日本21に代表されるように、予防医学の観点から、健康な生活における運動(スポーツ)の重要性が指摘されていたことを鑑み、当面はアンチ・ドーピングに特化したカリキュラムとしつつも、将来的には、スポーツ全般に対するサポートの役割を果たすことを想定して「公認スポーツファーマシスト」とし、2009年1月に認定制度が発足しました。

その後、現在に至るまでの16年間で薬剤師の皆様をはじめ関係者のご理解のもと、延べ13,000人以上の方々が公認スポーツファーマシストとして認定され、国民スポーツ大会をはじめ、様々なステージでアンチ・ドーピング活動に貢献いただいています。2021年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、村内に設置された薬局で、たくさんの薬剤師の皆様が活躍し、世界のアスリートやスタッフの健康管理に大きく貢献、海外からも高い評価をいただきましたが、その中心はスポーツファーマシスト資格をお持ちの方でした。

大会後に関わってくださったスポーツファーマシストの方々から、アンチ・ドーピングに加えて、より広くスポーツに貢献できるように活動の場を広げたいというご意見をいただいたことを受け、今回、本機構が中心となり、JADAとともにカリキュラムの見直しを行いました。新カリキュラムでは、アンチ・ドーピングを柱としつつ、スポーツ薬理学、スポーツ医学、スポーツ科学などが追加され、当初の構想通り、スポーツをするすべての人をサポートするための資格となります。

本機構では、公認スポーツファーマシスト認定制度に加えて、スポーツファーマシー登録制度を運営し、地域の薬局を通じてスポーツと健康に関する情報を地域の皆様に提供しています。公認スポーツファーマシスト認定制度とスポーツファーマシー登録制度が両輪となり、健康のためのスポーツから競技スポーツまで、すべての人がスポーツによる豊かな生活を享受できる社会の実現を目指して参ります。